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ヴァリの神話に迫る:オーディンの息子とロキの息子

■雑記

ヴァリの神話

 北欧神話において「ヴァリ」の名を持つ存在は複数現れますが、特に重要なのはオーディンの息子とロキの息子という二柱の神格です。この混同は写本の誤記や解釈の違いに起因しており、両者の物語を分けて理解する必要があります。

オーディンの息子ヴァリ

 最高神オーディンと巨人の娘リンドの間に生まれた復讐の神ヴァリは、『古エッダ』の『巫女の予言』にその誕生が劇的に描かれています。光の神バルドルが盲目のヘズ(ホズ)に殺害された後、オーディンは予言に従いリンドを訪れます。9日間の執拗な求愛の末、リンドはオーディンを受け入れ、ヴァリが誕生しました。驚くべきことにヴァリは生後一夜で完全な成人に成長。手を洗う暇も髪を梳かす間もなく、ヘズを弓で射殺します。この早熟性は「復讐の具現化」という神格の特性を示しており、司法神としての側面も持つことが『詩語法』で言及されています。彼は常に弓を携え、森を駆け巡る姿で描かれることが特徴です。ラグナロク後の世界では、ヴィーザルやマグニらと共に生き残り、再生したバルドルやヘズと共に新たな世界の礎を築くと予言されています。この「破壊と再生」のサイクルにおいて、ヴァリは復讐を超えた調和の象徴としての役割を担っているのです。

ロキの息子ヴァリ

 一方、悪戯神ロキと女神シギュンの間に生まれたヴァリは、『ギュルヴィたぶらかし』に悲劇的な運命が記されています。バルドル殺害の罪で捕らえられたロキを縛るため、神々は彼の息子たちに残酷な運命を課しました。兄ナリを狼に変身させられたヴァリは、無理やり兄弟を引き裂き、その腸で父親を岩に縛り付ける役割を強要されます。このエピソードは『巫女の予言』の謎の一節を解釈する過程でスノッリが創作した可能性が指摘されており、元々はオーディンの息子ヴァリを指していたとする説も存在します。

ヴァリのエピソード

 ヴァリの物語は「アンドヴァリの黄金」との意外な接点を持ちます。ドワーフのアンドヴァリが呪いをかけた指輪は、ロキ→オーディン→フレイズマルへと渡り、最終的に英雄シグルズの手に渡ります。この黄金を巡る争いが、『ヴォルスンガ・サガ』で描かれる復讐の連鎖を生み出しました。ヴァリの復讐劇と黄金の呪いは、北欧神話における「因果の必然性」を象徴しています。オーディンが予言を実現するためにヴァリを創造した行為そのものが、やがてラグナロクを招来する矛盾を含んでいるのです。アンドヴァリは、北欧神話に登場するドワーフ(小人)です。彼は滝の近くに住んでおり、自らの意志で魚(特にカワカマス)に変身する能力を持っていました。アンドヴァリは莫大な富を所有しており、その中でも特に重要なのがアンドヴァラナウトと呼ばれる魔法の指輪です。アンドヴァラナウトは、財産を増やす能力を持つ魔法の指輪で、この指輪はアンドヴァリの富の源であり、彼にとって非常に大切な宝物でした。

 物語は、神々のオーディン、ヘニル、ロキが旅をしている時に始まります。ロキが誤ってカワウソに変身していた人間のオッタルを殺してしまったことから、オッタルの父フレイズマルは怒り、オーディンを捕らえ、その釈放と引き換えに莫大な黄金を要求しました。この要求を満たすため、ロキは海の女神ラーンから網を借り、アンドヴァリを捕まえます。ロキはアンドヴァリの全ての黄金を奪い、最後にアンドヴァラナウトも強奪しました。全ての財産を奪われたアンドヴァリは、怒りと復讐心から指輪に呪いをかけ、指輪を所有する者に破滅をもたらすというものでした。ロキは奪った黄金をフレイズマルに渡しましたが、呪いの存在も告げました。その後、黄金は様々な人々の手に渡り、その度に悲劇を引き起こしていきます。フレイズマルの息子ファフニルが父を殺し、黄金を奪います。ファフニルは黄金を守るためにドラゴンに変身します。英雄シグルド(ジークフリート)がファフニルを倒し、黄金を手に入れます。シグルドはブリュンヒルド(ブリュンヒルデ)に指輪を贈ります。リュンヒルドとシグルドの死後、グンナルは黄金を洞窟に隠し、後にアンドヴァリはこの洞窟を発見して黄金を取り戻しますが、アンドヴァラナウトは永遠に失われたままでした。

また、中世写本『AM 738 4to』に残る挿絵では、弓を携えた若者としてヴァリが描かれています。しかし『デンマーク人の事績』ではボーウス(ヴァリのラテン語名)とホテルス(ヘズ)が相討ちになるなど、地域ごとの解釈差異が確認できます。Melの研究によれば、原典資料において「ヴァリ」「アーリ」「ナリ」の名称が混同されていることが判明しています。例えば『ロキの口論』では「腸で縛られた者」がナリともナルヴィとも表記され、この混乱が後世の解釈を困難にしています。

その他の紹介

 ピクシブ百科事典では「弓機兵ヴァーリ」として擬人化され、Melの『新釈北欧神話』では司法神としての側面が強調されています。ゲーム『戦場のヴァルキュリア』シリーズでは、超常的な力を持つ「古代ヴァルキュリア人」のモチーフとして引用されています。アニメ『終末のワルキューレ』では神々側の戦士として登場し、その弓術が特徴的に描写されました。またTRPG『ダンジョンズ&ドラゴンズ』の「ヴァーリの祝福」は、復讐を成就するための神聖魔法として体系化されています。

まとめ

 ヴァリの神話は、北欧神話の核心である「宿命と自由意志」の葛藤を体現しています。オーディンの息子としてのヴァリが示す「予言の自己実現性」、ロキの息子としてのヴァリが体現する「運命の残酷さ」——この二面性は、現代に至るまで芸術家たちにインスピレーションを与え続けています。写本の解釈違いから生まれた混同は、かえってこの神格の多義性を豊かにし、21世紀のメディアミックス時代において新たな生命を吹き込まれています。

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